本のある広場としての苅田町立図書館|「図書館」(仮称)リ・デザイン Advent Calendar 2020

『有線してもいいですか?』私の好きなアニメの一つ、2030年の世界を想定している『攻殻機動隊』の中では情報が電脳と電脳でやりとりできます。それでもなお書物をアーカイブした荘重な図書室もやはり登場します。はたまた宇宙世紀になって78年たった頃(いつなんだ?)、『こいつ動くぞ!』と言われた『ガンダム』の世界でもモビルスーツRX-78-2の初動マニュアルはバインダーに綴じられた紙でした。

 もちろんSFアニメの世界ではありますが、そこには人と情報との距離の感覚や入手するときの実感などで求められる姿が示されている気がします。私たちが入手する情報というものだけでなく、その『情報との接し方』も私たちにとっては大切な情報の一つなのかもしれないと思うのです。

 西暦2020年の今、開館30周年を迎えた苅田町立図書館に偶然にも館長として座っています。

 当館は日本の図書館建築を変えたコミュニティ型図書館の先駆の館と言われますが、着任前、今ほどそのコミュニティ機能は活用されていませんでした。

 図書館の利用者や来館者が年々減っているという時代の中で、行政がそれでもお金を投入し維持する施設の役割は何か。今思えば、当館のコミュニティ機能をもっと活用できれば面白い地域の交流拠点になるのではという思いが沸いたのが、私としての苅田町立図書館リ・デザインのスタートだったのかもしれません。

 商業界の経験に照らしてみれば、図書館というところは『素晴らしい資産と活かすべきノウハウやスキル』という素晴らしい館で、よい商材と人材を持っている商売と同じ。ではその商売は何をして伸ばしているか?

 それはお客さんのファンづくり、つながりづくり、PRに他ならないと見定めました。ところが、当時の当館の様子を振り返ってみると、お客さんをファンにしているか?もっとつながりをつくっているか?しっかりPRしているか?の3要素が足らないわけです。

 図書館があれば利用者が来るという時代はいつの話でしょうか。利用者は日常的にもっと魅力的な他のコンテンツにどんどん目を奪われていくし、図書館の魅力を知っている人の絶対数は当然、自然減や社会減も進んでいきます。ほおっておけば当然、図書館利用は下がっていきます。(ちょっと硬い話をすれば、図書館長を始めとして図書館員は、運営する行政資産の活用とさらなる展開をさせていくことも報酬をもらって果たすべき職務の一つです。いままでのままでいいなどと考えるのは職務怠慢。こういう時代ですから数字や効果が下降していくのは仕方ないですねぇと言っているのは論外だと思っています。)

 そこで施設の端から隅までを使ってイベントを増やし、一緒に盛り上げてくれる人たちとのミーティングを増やし、SNSでの情報発信を常としてきました。『いつも何かがおきる図書館』、『図書館らしくないことをする図書館』、『SNSでのアピールが強い図書館』、『自分たちの夢がかなう図書館』、『次の週末の行先として選ばれる図書館』などを標榜し、やらかす苅田町立図書館にしてきました。

 さらに図書館のリ・デザインを考えるなかで『図書館の持つ素晴らしい資産と活かすべきノウハウ』はどのように変わっていくのでしょうか。

 デジタル情報はどこでも入手でき、非来館型のサービスも充実していく中で、地域の人々に利用してもらえる図書館(仮称)とはどんな施設なのでしょうか?

 私は中学校の図書室には毎日行っていました。推理小説にはまってある書棚の端から順番に借りて帰っていました。高校時代は街の図書館は商店街に遊びに行くときの荷物置き場でした。大学時代はその後、妻になったアネさんとイベントの打合せをする場所でした。図書館で読んだ書物の内容がどうだったかではなく、自分の経験や記憶の中で重要な何かにどんな風に出会った場所だったか?でもいいのかもしれない。あの図書館のあの席に座って手にした1冊が人生を変えたとか、そういう体験の総体としての”場”であることも図書館の役割なのかもと。

 すぐに必要になる情報はさっさとデジタルで入手しても構わない、でも何かの体験と記憶を創りそこで得た情報との距離感や触れ方などの実体験はその空間でどういう出会い方をしたのかということも含めての自らの体験になるのではないかと。

 苅田町立図書館の広場で鼓笛パレードの指揮をしたあの子とそれをビデオに收めていたあの家族は一生、苅田町立図書館での体験を忘れないでしょう。そして、もしいつか本や情報に触れたくなったときには隣町の新しい図書館ではなく我が館に来るでしょう。

 当館の開館以来のキャッチフレーズとなっている『本のある広場』。広場には人が集い、広場を人が通り、広場で夢のある話をし、広場でパフォーマンスしたり、商売もできる。もちろん広場にくるのは無料。
誰もがここに来て自分の実現したいことをしていく自由なそして広がりとつながりのできる場。そして本もある、情報の端末もあれば自由に情報にも接することができる。人や資料や郷土が持つ地域の宝にも触れることができる。

 そんな場所であることを常に意識し活用できる姿を示しPRしつづけることが、これからの情報の府として求められる地域の人にとって記憶と体験の中に存在できる場となることにつながる。それがこの苅田町の苅田町民にとっての苅田町立図書館の使命だと思っています。

 これから先、急速に情報というものの存在の仕方、形が変わっていくでしょう。でも人間社会である以上素敵な人には直接出会いたいものです。いい情報にも自分の実体験としてつながっていきたいものです。それらの情報と人がつながる場所であることは変わることなく、いつまでも広場であり続けていきたいと考えています。

2020年12月8日

苅田町立図書館 館長 逆井 健

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