図書館なしの子|「図書館」(仮称)リ・デザイン Advent Calendar 2020

図書館関係のイベントに出ると、「図書館大好き!」という方によくお会いします。そういう時に私はいつも苦笑いをしているように思います。残念ながら、私は「図書館大好き!」とは言えない自分に後ろめたさを持っています。私にとって図書館は「許しがたい」存在だからです。 

子供の頃の私にとって本と関われる場所は、学校の図書室でした。小学校三年生くらいからは、職員室でカギを借りて、ハデな緑色の代本板を使い、ノートと図書カードに記入し自分で本を借りました。どれくらい本を借りていたかは覚えていませんが、司書の先生はもちろんいませんでしたし、読んでいた本の世界を自分自身では広げることはできませんでした。小学校の同級生は十数人でしたので学校の規模も分かっていただけると思います。中学も同じようなものでした。高校でやっと図書室の先生が登場します。ある時、図書室でリクエストできる事を知り、自分では買いにくい本を入れて頂いたのは、とても嬉しかったのを覚えています。

ここまで公共図書館一切出てきません。そうです。公共図書館は、私の町にはありませんでした。別自治体の隣町に図書館はありましたが、小学生は、校区外に行くことは禁止だったため全く使う事がありませんでした。習慣とは恐ろしいもので、中高生になってもそのままでした。教師だった父が隣町の図書館を知らなかったくらいですから…。私は図書館なしの子でした。

公共図書館に気が付いたのは、大学入学を機に実家を離れてからでした。二十歳にして公共図書館デビューです。大学時代には、「知る」事に関して自分はなんと恵まれていなかったのかと気づかされ、怒りを覚えました。図書館「許しがたい」の誕生です。一方でICTにより、いつでもどこでも誰にでも「知る」環境が与えられる世界にのめりこんでいきました。私は美術を専攻していましたので、作品情報や資料情報のICT活用が大きなテーマとなり、それを実現するには図書館が大きな役割を担う事に気づき、図書館との関わりを深め今に至ります。

「知らない」事は本当に恐ろしい事だと思います。「知らない」を自覚しないと「知ろう」ともしませんし、「知らない」事で自分が損をしている事すら気づかない可能性もあります。ですが、「知る」環境が無いのは個人の責任でしょうか?「知る」環境については、今年は本当に考えされられました。コロナ禍のため4月からしばらく我が家の子供たちの学校は休校となりました。子供たちと蔵書検索をするにしても図書館を利用するには相当の努力を強いられる事となりました。そのままオンライン授業が実施されていたら子供たちは、図書館を使う調べ学習は全くできなかったでしょう。このまま図書館との断絶が続くのではないかと、私はかなりの危機感を覚えました。私は、図書館は全ての「情報センター」であるべきだと思っていますので、インターネット検索にも図書館からの情報がもっと反映されて欲しいと思っています。

世の中ではオンライン会議等が広まり、学校ではGIGAスクール構想の前倒しによって、オンライン授業等も日常化されていく可能性が出てきました。我々は変化せざるを得ません。では、図書館はどうでしょうか?私が感じた断絶の危機感を持ってますか?ネットワーク環境での新しい利用に対応できますか?新しい図書館の使い方を利用者に教育できますか?疑問は尽きません。私が「図書館」(仮称)リ・デザイン会議に参加したのもこの疑問を解消したかったからです。でもまだまだ解消には至りませんね。

今後、図書館は「意図と意思」を持ってこれからの変化に迅速に入って行かないと、利用に努力できる一部の人のものになってしまわないでしょうか。「(調べ方や技術的に)分からないからいいわ」と「知る」事に無気力な人や「Googleでいいよ」と図書館との関わりが薄い人も世の中にはいるように思います。今までは、このような人々を置き去りにしているのではないかと考えていましたが、変化について行けないなら今後は図書館が置き去りにされてしまうかもしれないと考えるようになりました。 

図書館なしの子だった私は、図書館に「許しがたい」と「大きな期待」の相反する感情を持ち続けたまま大人になり親となりました。幸いにもある程度の「知る」術も手に入れ、今ではその術を次の世代に伝える仕事も出来るようになりました。さらにICT活用の世界が現実のものとなってきています。良い世の中になってきました。今の苦しい状況はチャンスです!新しい変化によって、「許しがたい」が解消され多くの人に今以上に「知る」環境が整えられて欲しいと思っています。

かつての私のような「知る」術と環境を持たない図書館なしの子はもう生まれなくていいのです。

2020年12月10日

うえだひろみ

この 作品 はクリエイティブ・コモンズ 表示 4.0 国際 ライセンスの下に提供されています。