蟹取県の片隅で・・・|「図書館」(仮称)リ・デザイン Advent Calendar 2020

もうずっと、もう何年も、学校図書館のことを考えている。

 我が町には高校がない。小学校3校、中学校は2校。その全ての子どもたちが等しく、情報を使いこなすことができる力を持って高校へ進学、つまり町外に出ていってほしいと思っている。その力を育てるために、学校図書館が何をすべきか、何ができるか問い続け試行してきたが、まだ成果が上がっているとは言えない。

 学校図書館は公共図書館とは全く違う。図書館設置の根本となる法律が違う、果たすべき役割も目的も違う。業務としても、もしかしたら貸出・返却と館内整備くらいしか共通項がないのかも・・・と思うことがある。状態も様々。一週間に1日しか開かない、専任の職員がいないという学校図書館もまだある。公共図書館でそんなところはほとんどないでしょう。あれば問題になっているのでは? それくらい学校図書館は見えにくい。加えて、図書館活用が順調に進んでいたとしても、学校のトップが掲げる方針一つでがらっと変わってしまうこともある。課題は多い。おそらく志のある学校司書ほど壁にぶち当たる。だからなのか、学校図書館関係者が集まると、大変だよね・・・という声がつい漏れてしまう。その気持ちもわかる。でもそれだけでは絶対に終わらせたくない。だからここ、「図書館」(仮称)リ・デザイン会議、にいると思っている。

 中学校から小学校に異動になって2年目になるが、学校図書館のことのみならず教育そのものについて考えることが多くなった。教え育てるということはどういうことか? 子どもたちの6年間の変化は凄まじい。低学年の児童ほど、植物が水を吸い上げるように、実に様々なことを驚くべき素直さで吸収していく。接している周囲の大人たちの責任は重い。子どもたちにとって大人はどういう存在であるべきか?先日、横浜創栄中学校・高等学校の工藤勇一校長の講演を拝聴する機会があったが、その中で「これからの教師は、ティーチャーではなくコーチャーであるべき」という言葉があった。教師は知識を教えるのではなく、どのように学びを深めていくか助言し導く存在。今後は、新しいツールを使いこなし、教師の知識を越えてくる子も当然登場するのだろうし、そういった子どもたちにどう関わっていくのか、教師の姿勢も問われるだろう。では司書は? 学びを支援するのなら、学習者の変化に対応できるよう、司書も学び続けなければならない。そして、そういった人材をこれからどう育成していくかということも課題であると感じている。個人的には面白い世の中になってきたと思う。この一年の自分の変化も面白く思える。去年の今頃は、オンラインイベントに参加したり、zoomで会議したりする姿は想像すらできていなかったのだから。

 今、学びの内容や学びのスタイルが変わろうとしている。いや、恐らく変わらなければこの国の未来はない。今までは一定の成果をあげてきたであろう、教育方法はもはや限界にきていると感じている。先日、勤務先の職員と雑談していたところ「子どもたちが学校に拘束されている時間が長すぎるように思う。教科の学習は午前中くらいにして、午後からは選択制の活動(クラブ活動のような)とかに取り組めばいいのにね」という話になった。現場の教員(しかも割と年配)の中からそういった声が上ったのには少し驚いたが、でも先生たちも肌感覚で感じ取っているのだと思う。

 コロナ禍で前倒しになったGIGAスクール構想は、学校が、学びが変わるチャンスだと思っている。その中で学校図書館はどういう役割を担うのか。むしろ学校図書館を中心にして考えたら、情報活用能力育成も、ICT活用も、プログラミング教育も上手くいくのでは? と思っているが、どうだろう。それでいくと、将来「図書館」という名称が消えるのは、公共図書館より学校図書館の方が早いような気がする。「新しい何かを創造できるところ」にふさわしいなんらかの名前に変わっていくのだろうか? 鳥取県の青翔開智など、もうすでに「図書館」とは呼ばない学校もちらほら出てきていることだし・・・。本来なら、学校が変わらなければ学校図書館も変わるのは難しい。でも、その逆があってもいい。学校図書館の変化が、学校全体の変化に繋がるようになると面白い。

 図書館の情報・知識の枠組みをとらえなおし、再設計して社会に定置する、「図書館」(仮称)リ・デザイン会議。「図書館」(仮称)を考えるなら、「公共図書館」だけでなく、「学校図書館」「大学図書館」のことも一緒に考えたい。役割分担というような話になるのかもしれないし、融合という話になるのかもしれないし、まだ全体像は見えてないのだけど。でもきっと、30年後を考え続けながら今の図書館に関わるのと、何も考えていないのは違うと信じたい。希望はある。そう思いながら明日もまた学校図書館へ行く。

2020年12月14日

安田 美穂子
(蟹取県の片隅で考え続ける学校司書)

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