30年後の2050年に今の私と同じくらいになっている、君たちからの図書館(仮)へのメッセージ|「図書館」(仮称)リ・デザイン Advent Calendar 2020

前回、12月12日のアドベントカレンダーにて未来を描き続けた、真鍋博に触れながら、私自身の、公共と図書館(仮)との未来に向けての思考の整理を試みた。

真鍋が没して今年は、20年目にあたり、前にも書いたように、愛媛県立美術館や出身地の新居浜市美術館が、それぞれ『没後20年 真鍋博2020(10月1日(木)~11月29日(日))』、『真鍋博の贈りもの(9月5日(土)~10月18日(日))』を開催した。

特に、かつて高校まで真鍋が過ごした新居浜市美術館で行われた『真鍋博の贈りもの』展では興味深い展示が同時になされた。新居浜市内の小学生に、真鍋博の作品のように、自由に「未来の世界」を描いてもらい、それを真鍋の展示の同じ階の隣接した別会場で展示していた。その中の作品に、「未来の教室」という作品があり、おそらく数百はある作品の中でも印象深いものだった。その作品では、おそらくはアイフォンと思われる端末があり、ペン型の操作備品とその二つだけが教室の机の上におかれており、授業が完結するさまを描き出していた。コロナ禍における学校教育は、今後の改革の計画をよそに、特に公立の小中学校は、各地でかなり苦戦しながら、休講中の対応に追われ、感染症対策にピリピリとしながらも「対面授業」を行わざるを得ない校が少なくない。そうした中にあって、この作品は、技術的には不可能ではない、端末による学習環境の進展がまったく進んでいない現状では「現在でもできるはず」の環境が、「いつかは可能である未来」の姿として描かれており、現代の学校をめぐる優れた批評性のある指摘を喚起している。時として、次世代の人々が描く未来の姿には、現代への批評や批判が含まれていたり、知識や経験がない分現状の課題の核心をつく視点が含まれることがある。

30年後、私は80代、ひょっとするとすでに鬼籍の側にいるのかもしれない。むしろ、30年後に、私と同じ年か少し若いはずの司書課程を専攻している30名弱の受け持ち学生諸君に、30年後の社会においての図書館(仮)についてどのような期待を持っているのか、率直に聞いてみた。そのうちのコメントのいくつかを皆さんに紹介し、これからの30年間の図書館(仮)のアップデートを共にどう見据えていくか、我々が見落としている何かを教えてもらうために。なお、基本的には学生の意見をなるべく編集しないで記載しているが、適宜要約したり、意味が通りづらいところなどは()で補っている。

「おすすめや知らなかった本をもっと直感的に気になるものを手に取れるように進化して欲しいと思っています。2050年ということでとにかく敷居が低くなればと思いました。また、学校図書館の30年後について、放課後に学校の図書館で地域を巻き込んだイベントがあるとか、学生の敷居を低く、参加したいと思えるような関わりなどがあるといいなと思いました。」

「自分の考えとしては、勉強スペースが増えてほしいということが1番未来の図書館に求めることです。本をデジタル化して本の冊数を少なるする等の工夫をしてもらい、自習スペースを増やして欲しいなと思っています。あとは、非来館型サービスの充実をして欲しいなと思います。」

「30年後の図書館は今よりもっとイベントを増やしたり、地域の学校の行事で図書館を利用したものができると楽しいと思った。家にもパソコンはあるけど、どうしても集中できないので図書館にレポート作成用の部屋があるといい。」

「レポート調査をしたときに、本を公共図書館に借りに行ったり返したりすることに時間を使い、借りても知りたいことが書いていないことがあったり、借りたくても持ち出し禁止で借りられないことがあったので、電子書籍をもっと手軽に簡単に借りられるようなアプリ(サイトだと、検索してサイトに行くのが面倒だから)があればいいのではないかと思った。ただ、直接読みたい本を借りに行って紙の本を読むことも好きなので、実際の図書館もなくならずにあってほしい。」

「未来から逆算して考えた方がよく、学校図書館が学校の中心になり、子供たちを支援できるようになるといいなと考えている。図書館自体アナログな気がして、電子になりそうだなと私は考えてしまうので、(コロナ禍が)子供でもそのほかにも誰にでも気兼ねなく利用できる社会の転換になるようになれるといいなと考えました。」

「30年後には、大人(社会全体)にとっての学校および公共図書館のイメージもがらりと変わっているのではないだろうか。地域格差も少なからずあるだろうが、私にとっての図書館のイメージは、図書館について勉強する前と後でかなり変わったように思う。しかし、私たちのように専門的に学ばなくても、急速なデジタル化が進んだことでSNSなども発達したため、情報を得ることも発信することも容易になった。図書館も進んでインターネットを利活用しているため、人々にとってより図書館が身近に感じられるようになるのではないだろうか。」

「30年後も図書館があると仮定すると、現在よりもさらに機械が発達し、今まで司書が担ってきた役割を機械が担うのではないか、という考えがある。図書館内にロボットのような機械的なものが存在していていもおかしくない、ということである。ただ、レファレンスに関していえば、これは司書が担わなければいけない役割だと考えている。また、機械の発達でいえば、現在よりもさらに「誰でもがアクセスできる」環境になっていると思う。しかし、その一方でデジタル化が進み、紙媒体がそもそも存在しているのかも疑問ではあるが、紙媒体にも良さがあるため残っていてほしいのが望みである。そして、バリアフリーなどの発展もあり、高齢者や障害のある方が図書館に通いやすくなっているとも思うし、利用者、だけではなくて幅広い年齢層の方に図書館に気軽に足を運んでもらえるように図書館内にカフェ等のちょっとした施設がある図書館が多くなっていそうという考えもある。「図書館では静かにしましょう」というイメージが変化していそうである。図書館にはいろんなサービスがあるのだということを利用者の方には認知されていてもそれ以外の人にはあまり認知されていないのではないだろうか。そのため、これから先、図書館側が情報等をさらに発信し、図書館でのサービスを幅広い人たちに認知されていくといいのではないかと感じている。」

「私は、公共図書館などに、現在はあまり普及していないのだが、電子書籍の機能が各施設におかれ、施設をこえて電子書籍が置かれる場になるような変化があるのではないかと思う。なぜなら、今、コロナの状況で、家で過ごす時間が多く、その時に本を読む電子書籍利用者がいるからである。今後、電子図書館の導入によりコロナのような状況に陥るようなときがあった時、有意義に本を読んで過ごしてほしい。」

「未来の図書館は、今のスーパーのレジにあるような自分で本の貸出・返却ができる機械が導入されているのではないかと思う。また、電子書籍化が今以上に進み、図書館に来館する人が減るのではないかと思う。改善してほしいのは、図書館のこのあたりにこのような種類の本があるという地図を図書館の様々なところに貼っておいてほしいということだ。」

「これから30年後の図書館に期待することは完全にオンラインで図書館に行った感覚になるサービスである。検索してほしい本を手にする今の電子書籍貸し出しサービスは欲しい本がある人は良く利用するが自分のようにほしい本、読みたい本も特にないが図書館に行くタイプの人間には利用しづらく感じる。近年はバーチャルマーケットというVRで実際に手に取って買い物をしているような感覚になれる催しが現時点で行われていることからもバーチャル図書館の実装で家にいながら適当に気になった本を借りることができる未来も近いと考えている。同時に30年後に貸し出し、返却も全自動でできるような仕組みが考案されていることも期待している。」

 いかがであろうか。私はこれらの意見を読んでいて意外に思った。少なくとも私や私の周りの同世代が議論している、図書館の今後や現状の課題とそう大きな相違点を感じられなかった。ここに紹介した以外の学生諸君の意見もそう大きく異なった意見は見いだせなかった。逆に言えば、同じ時代の<公共>と<図書館>とを見つめている課題認識も、共通な点を見ているのかもしれない。

 「図書館」(仮称)リ・デザイン会議の取り組みは、様々な<図書館の今後>を眼差す人々によってひとまずは図書館に何らかの形で従事したり関係を持つ人々により出発したといっていい。その連帯は今後も広げていく一方で、今回、学生諸君に「30年後の図書館(仮)」を投げかけてみて、改めて世代として次を担わざるを得ない年代の人々との対話の意義を感じた。もちろんそのために、我々自身のボキャブラリーや「第二の言語」といわれる、知を開いていく異世代への思考回路の柔軟さも求められよう。我々が知的回路を開いていきつつ、同じ土俵に立って次世代と本当の意味で対話を行うならば、躍進することはなくても、長いアドベントカレンダーでまだ見ぬ立候補者が増えるかもしれない。

 最後に、学生諸君よりさらに3歳ほど若い、ある高校生にも意見を聞いてみた。その意見も紹介しよう。

「僕はアーカイブの貯蔵庫だったら良いなと思います。こんな資料や記録が欲しいと言えば一発で出てくるような。だけどオンライン図書館とかになるかもしれないですね。そうなったときにリアルの図書館に求めるのはコミュニケーションの場や憩いの場だと思います。」

 ほぼ30年後の「図書館(仮)」への意見に関しては、大きな差はない。あとは今後の課題に向けて、具体的に、より若い世代との間で、<公共>と<図書館>とを共創していけるかどうか、こうした点を勧めていきたい。一歩づつ。いや一日づつ。

2020年12月29日

中俣保志(香川短期大学)

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