知識を、駆動させたい|「図書館」(仮称)リ・デザイン Advent Calendar 2020

 2015年3月、私はアメリカはオレゴン州のポートランド州立大学で、キャンパスにかかる陸橋の下に立って見上げていました。

 そこに書かれていた言葉「let knowledge serve the city」を。

 ああ、これだな、と腑に落ちたのです。

 「知識で都市に貢献せよ」というのがおそらくスムーズな日本語訳ですが、私は直訳のニュアンス「知識を都市に貢献させよ」に、大学の、そして図書館の使命がある、と感じたのでした。

 知識を、駆動させたい。

 私は地方国立大学の図書館に勤めています。

 ひょんなきっかけで2012年から3年間、アクティブラーニングの実践授業に関わり、勢いで、先生や学生と一緒にポートランド研修に行きました。

 ポートランドは市民参加のまちづくりで世界的に有名なまちです。せっかくなので、研修の自由時間にポートランドの公共図書館「Multnomah county Library」をのぞいてみました。そこで見たものは、クラシックで美しい図書室と様々なICT設備が融合する施設、多彩な講座、そして、図書館司書個人個人のスキルが明示されアピールされている、その存在感。

 まさに、「未来をつくる図書館」のとおりの図書館がそこにありました。

 図書館の中はどこも素敵でしたが、ふと目に留まったのが子供図書室にあった「beginning fact」と名付けられたセクション。

 事実のはじまり。事実への入門、と言ったところでしょうか?

 並んだ本を見てみると、植物や動物など身の回りの自然、人種問題などの社会問題、人生哲学などがあり、ノンフィクションのコーナーのようです。それにしても「Fact」という言葉がすごくいいな、アメリカではよくあるコレクションなのかしら?と気になり、後日メールで(口頭で質問できる英語力はないので!)どんなコンセプトのコレクションなのか尋ねてみました。すると、「beginning factは、15年前から使い始めた名称で、すべての図書館で使われている一般的な名称ではありません。多くの子供たちは彼らの身の回りにある世界の事実に関する本を読んだり学んだりすることがとても好きです。これらのコレクションを提供することで、子供たちがよい読者になったり、生涯にわたり学び続けられるようになる助けになります。子供たちは、楽しみのために読んだり、学校の宿題のために使ったりしています」といった、とても丁寧な回答をいただきました。

 様々な事実に関する、子供の素朴な知的好奇心に応える。それが将来にわたって学び続けることを支援することになる。事実について調べる習慣は、やがて自分たちのまちの課題を自分たちで解決する力となるに違いありません。このネーミングにポートランドらしさを感じ、私のつたない英語が通じた!という感激とあいまって、今も深く深く、心に残っている出来事です。こんな風に、図書館がFactを扱っていることをもっとうまく伝えられたらいいのに。

 もう一つ、この授業で心に残ったことがあります。

 それは、今、現実世界で課題になっていることの多くはまだ、本や論文になっていないということ。

 これまでの大学教育では、本や論文、新聞記事などで情報を探せばある程度研究材料なり、レポートの材料なりを提供できたことになりましたが、アクティブラーニングなどで現実世界の課題解決をするとなると、どうにもこころもとない。インターネット上では様々な情報交換がされている。事態はどんどん先へ進んでいる。そのスピードに大学図書館はついていけているか?情報のありかを探るすべを知っているか?

 今までとは、そもそも情報の発生の仕方、流通の仕方が変わってきていると感じます。自分自身の勉強不足もあるけれど、このままで、うちの大学図書館は大丈夫?

 そんな問題意識から「リ・デザイン会議」に参加させていただきました。 

 そもそも知識を駆動させたいのは何故だろう。

 それはやはり、自他の違いに心を寄せて、どんな人も自分の生きたい道を歩けるような社会をつくりたいから。だからそれを支える基盤となる「知識」「情報」「物語」を供給し交換し、継承する装置、システムを作りたい。それはどんな形をしていたらいいんだろう? 

 今の私の問題意識はまだ、現在の図書館の改良の域を出ていないけれど、「リ・デザイン会議」で様々な人たちの交流する中で、もっとびっくりするような、新しいアイディアに出会えたらいいな、と期待しています。

 野望は大きく。小さくてもいい、できることから動き出そう。

2021年1月18日
徳島大学附属図書館 佐々木奈三江
(CC-BY4.0)