The library as place |「図書館」(仮称)リ・デザイン Advent Calendar 2020

気軽に人が集まる場所に出掛けられない日々が続きますが、みなさまどうお過ごしですか。

私も以前は休日に暇があると図書館に足を運んでいたのですが、座席が減らされ、読書会などのイベントなども中止になり、滞在時間の短縮を呼びかけるアナウンスが流れるなか、ゆっくり過ごすことは難しくなり、本は電子書籍で購入して自宅で読むことが多くなりました。

新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、テレワークが浸透したり、ネットショッピングやデリバリーサービスの普及が進んだりと、コンピュータとネットワークの発達に拍車がかかり、家にいながらなんでもできるようになって、利便性は向上している気がしています。

私が通っている大学の図書館でも、宅配による書籍の貸し出しが始まりました。また以前から存在は知っていたけれど利用していなかった電子図書館やインターネットのサーチエンジンやSNSを使った資料検索に慣れ、使いこなせるようになってきました。

電子化へのニーズの高まりに対応して、図書館はこれから収集する資料も書籍だけでなく幅広いものになり、インターネットでの情報公開が進められていくのではないかと思います。遠隔利用ができ、速く正確な情報を届けることが可能になることは、情報格差を埋めることにも役立つと言われているそうです。

しかし、電子化が進んで人が図書館に通う必要がなくなってしまえば、今ある図書館の建物や書架などは必要なくなってしまうのでしょうか。私は必ずしもそうではなく、場所としての図書館の需要はまだあるのではないかと思っています。図書館がどんな場所としての価値を持っているか、3つほど思いつくことがあります。

まずは、情報との出会いがある場所としての図書館について。
書架があるからこそできる図書館の利用方法として、何の目的もなく、面白そうな本はないかと書架を眺めながら歩いたり、目に止まった本を拾い読みしたりする、というものがあります。このような資料のさがしかたを、ブラウジング(browsing)と言うそうです。(ブラウズとは、羊が草をはむ動作を表す英語で、本を探してぶらぶらしている人たちを良い草を求めて気ままにあるく羊のようだと考えると、図書館の風景がのどかな田園風景のように見えてきます…)これは検索エンジンに関連ワードを入力してヒットする資料をさがす方法とちがい、決して効率的とは言えませんが、自分が今まで興味を持ったこともない、領域外の未知の本との偶然の出会いがあったり、目に止まった本から、自分でも気づいていなかったけれど、無意識に考えていたことがわかったりする楽しみがあります。

次に、人が集まる場所としての図書館について。
「情報との出会い」と少し続きますが、人との出会いも新しい情報へのアクセスであるということができます。教室やイベントが開催されていれば、人の輪の中に入ることができます。そこまでしなくても、各々で読書や自習をしている人たちの間に混ざるだけで人とのつながりを感じ取ることはできます。
私事になってしまいますが、行く場所や会う人がいなくて居場所を失ったと感じ、家にじっとしているのも耐えられなくなった時に、図書館に出掛けて、快適な空間を人と共有しながら過ごせることに救われていた時期がありました。受け入れられている、繋がれていると感じることができました。公立図書館は、みんなに開かれた居場所です。無料で利用できますし、誰でも本を手にとって読むことができます。そんなふうに出掛けていく場所として、居場所として、憩いの場所として、建物の図書館があることには価値があると思います。

最後に、電子情報にアクセスする手段を提供する場所としての図書館について。
資料の電子化は、確かに図書館が整備されていない地域などで問題となる情報格差を埋めることには役立ちますが、図書館の機能が各自のスマホやパソコンなどのデジタル機器に移るということは、それらの機器を持っていない人や、使い方がわからない人を図書館から締め出してしまうことになります。インターネットはみんなに開かれているようでいないのです。そのため、資料の電子化と並行して、電子機器の貸し出しやWi-Fi環境の提供、パソコン教室などを行うためのリアルな場所がまだまだ必要です。

三つ例を挙げましたが、場としての図書館のよさというのはまだまだあるのではないかと思っています。これから進化していく未来の図書館が、利便性を高めると同時に、あたたかさや楽しさといったものを残した場所になっていくことを願っています。

2021年1月9日
東京外国語大学3年 橋口真帆

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