ライバルはライブラリ|「図書館」(仮称)リ・デザイン Advent Calendar 2020

こんな感情が芽生えたのは、2020年12月某日、手持ちのiPhoneをiOS 14にアップデートしたときのこと。再起動をして最初に気づいたのが「Appライブラリ」という見慣れない画面であった。iPhone内のアプリを自動的にカテゴライズする新機能で、新規カテゴリの作成や他のカテゴリへのアイコン移動の権限は所有者にない。AI恐るべし。

本と建物のイメージから抜け出せない「図書館」のこれからを考える立場からすると、建物を持たずにスッと現れたライブラリの身軽さが羨ましく、つい嫉妬してしまったのかもしれない。ライブラリはlibraryで、libraryは図書館なのに「App図書館」だと違和感がある。この違和感の素に近づくべく、用語にこだわってみようと思う。

library=ライブラリ

ライブラリという用語は、スマホのアプリ内で前々より散見していた。例えば、GoogleフォトやYouTube、Appleミュージック、Amazon KindleといったGAFAの代表的なアプリを立ち上げると、メニューの1つに必ず「ライブラリ」がある。Appleはこの程さらに1つ加わり、写真アプリの「写真」ボタンがライブラリ(Library)になった。

ここでいうlibraryはコンピュータ用語のライブラリ/ライブラリーで、「プログラムやデータなどをひとまとまりに登録したファイル」に該当する。英英辞典でもlibraryを「a collection of similar things (such as books or recordings)」と説明し、同種のデータを集めた形態を指している。確かに、上記の各アプリでは、数多ある写真や動画、音楽、電子書籍の検索ができ、好みのものを選んでそれぞれのライブラリに置いておけば、いつでもアクセスできて楽しめる。libraryの本来の意味はストックやコレクションであることから、これに検索とアクセスの機能が加わった状態が現代のlibraryの概念になってきているとも言える。

library=図書館?

そろそろ、建物としてのlibrary(以下「建物library」)についても触れていこう。スマホアプリの例のように、現代のlibraryは建物libraryだけに限定されない。ストック対象である記録媒体は多様化し、それらが何であるかを説明するメタデータの付与により、検索機能の精度も上がった。では、建物libraryが技術的に遅れているかというとそうではない。むしろ進んでいた方である。記録された知識や情報(主に図書)を独自の分類法で整理してきた。検索データベース(OPAC:Open Public Access Catalog)と図書情報へのアクセス提供は、1990年代には既に開始していた。残念なのは、ストックしてきた膨大な図書をそう簡単にはデジタル化できない点である。実社会では、建物libraryへ行かないと、貴重書ではない一般の図書ですら中身にアクセスできない。書籍のデジタル化を切望しつつ、建物library特有の価値を見出すことはできないものだろうか。

今は安価な図書も、ゆくゆくは建物libraryでしか手に取れない高価な媒体になりうる。多種多様な記録媒体を選択できる時代に、図書に辿り着けた人のみが経験できる、蓄積された知識や情報の世界があるならば、そのときの道案内役はAIなのか、人間なのか・・・。

過去の蓄積を学習することに長けているAIは、人間が作業してきたものを次々とこなしていくに違いない。建物libraryにおいて、貸出しや返却、分類、配架など、大概の業務がAIによって効率化されたとしよう。では、AIの弱点は何か。それは、過去の蓄積にないものである。AIは学習することはできても、発想したり創造したりすることができない。建物libraryの「中の人」がAIに奪われない仕事を生み出すには、知識・情報の蓄積に向き合い、兎にも角にも思考を停止せず、自らアイディアを出し、同僚や他者とディスカッションし、新業務に向けた試行・実践を繰り返すことではないか。これは建物があってもなくてもできる。館種を超えても良い。異業種との接点を増やして外の視点からlibraryを見たり、ライバル?のライブラリとの差別化を図ってみたりするなど。その結果、建物libraryの外に新しい職種が誕生するかもしれない。大いに結構。今年立ち上がった「図書館」(仮称)リ・デザイン会議がやろうとしているのがまさにこれである(と理解している)。

ここまで「図書館」を極力使わずに書いてみたのだが、最後の最後に出てしまった。どうやら私の中の「図書館(仮称)」は、今のところ広義の「建物library」に変換されているようである。みなさんなら「図書館(仮称)」をどう捉えるだろうか。バックグラウンドが違えば、描き方も違うはず。リ・デザイン会議への提案として、図書館(仮称)アイディアソンをやってみてはどうだろう。

2020年12月9日

桂まに子(京都女子大学)

参考文献:
『図書館情報学用語辞典 第5版』(丸善出版、2020)
『プロフェッショナル英和辞典 SPED TERRA (物質・工学編)』(小学館、2004)
『Merriam-Webster’s Advanced Learner’s English Dictionary』(2016)

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